走り屋達の夢を辿る【首都高バトル】

2025年11月4日火曜日

Good PC アドベンチャー レースゲーム 感想

t f B! P L

 

首都高バトル は Genki が開発・販売するレースゲームであり、しばらくのアーリーアクセス期間を経て 2025年9月25日に正式リリースされた。

前作、首都高バトルXから18年の眠りを経て復活を遂げた『首都高バトル』。

相手の精神力を削り切ったら勝ちとなるSPバトル、首都高速を周遊しつつパッシングでバトルを開始するシステム、細かな設定やストーリー性を抱えた多くのライバル、夜の首都高速、そして非常に強力なボスやワンダラーと呼ばれる特殊なライバル。

こうした首都高バトルシリーズの醍醐味といえる点を引き継ぎながら、現代的なグラフィック、空白の18年間で進化した国産車達の収録、そして新たな試みを引っ提げて現代に蘇った。

通常のレースゲームとは異なったバトルシステムが用いられている点が大きな特徴であり、細かな設定やストーリー性を有する点も他の作品ではなかなか見られないポイントとなっている。

現在は Steam (PC) での販売になっているが、今後 PS5 版のリリースが予定されている。



2周クリアかつSteam全実績解除後の感想。

アーリーアクセス最初期の感想はこちらを参照のこと。

はじめに

前提として、休眠状態になっていたシリーズが真っ当に復活することは喜ばしいことである。

長らく眠っている間に誰もがその精神性を忘れてしまい、まるでただの着ぐるみのように扱われるタイトルやフランチャイズがある中で、本作は(実現可能な範囲ではあるものの)しっかりそのものとして蘇った。

この長い時の中で変わっていったもの、変わるべきもの、そうでないものが綯い交ぜとなっている。

令和に蘇った「首都高バトル」が何を取り入れ、何を残し、何を失ったかを、そしてそれらがどうゲームプレイに影響していたかをまとめていこうと思う。

攻略プロセスを広げる「スキル」

本作での新しい試みの一つにパークツリードライバースキルが存在する。

パークツリーでは、ガレージや所持金の最大値増加、各種ディスカウントの強化、プレイヤーの能力の強化といった要素を BP (バトルポイント)を消費し獲得できる。

また、車両やチューニング項目の開放、プレイヤーが装備できるドライバースキルの獲得・強化もこのツリー上で行う。

単純に遊べば遊ぶほど強くなるといったものでもなく、どう能力を上げていくのかをプレイヤー自身が選び取れるようになっており、攻略の自由度が広がったように見える。

2周目のころには大体埋められるだけのBPがある

ドライバースキルもこの攻略の自由度に貢献している。

スキルの種類は多く、攻撃力や守備力といった基本ステータスの底上げといった要素だけでなく、SPの回復や特定環境での防御力の強化、ボスやワンダラーに対して効果を発揮するスキル等、多岐にわたる選択が用意されている。

ドライバースキルは最大で3つまで装備でき、プレイスタイルや戦略、ライバル側のドライバースキルに合わせて自由に選択できる。

ドライバースキルの獲得

こうしたプレイの幅が広がっている箇所は、現代のゲームで求められている「遊びやすさ」に適切にアプローチできているように思える。

ちなみにもう修正されてしまったが、「スタートから30秒間攻撃力 +50% 」「最初の攻撃の威力を極大化」「こちらの攻撃開始距離を短縮」という3スキルのシナジーが異常に強く、開始2~4秒で瞬殺という悪魔的なスキルセットが組めたりした。

また「ニトロで回復」「ニトロの消費を抑える」「各種消耗品の消費を抑える」というスキルセットで、SPが空になっても回復分で耐えられるのでニトロが尽きるまでは死なないというゾンビ戦法が編み出されていた(こちらも修正済み)

PA での掛け合い

舞台となる首都高速には実在する PA (パーキングエリア)が複数登場し、実際に立ち寄ることができる。

PA ではセッティングの変更やタイヤやニトロといった消耗品の交換、その場にいる人々からの情報収集、そしてパーキングで待機している他のライバルとのバトルが行える。

このゲームのヒントはもちろんのこと、特定の条件を満たしていないと戦えない「ワンダラー」と呼ばれるライバルに関する情報、ストーリー上の補足、各ライバルの背景や関係性の掘り下げまで行われる。

この会話の量が結構豊富であり、一個一個会話を見ていくだけでもそれなりに楽しめる。

ゲーム上のヒントを貰える



こういうどうでもいい会話もある


停車中の相手にバトルを挑める

LEXUS そして HONDA の参戦

さて、ゲームシステムだけでなく収録車種についての話もしておきたい。

本作のアーリーアクセス前から Genki は収録車種を1台ずつ予告する PR 動画をローンチしており、8月から正式リリース時に追加される新規車両についても 1 台ずつ予告が行われていた。

まず発表されたのは LEXUS の収録。

この18年の間で確固たる地位を確立し、独自のハイスペックモデルを複数抱えるまでになったブランドの堂々参戦が発表された。

そして8月末、R35 GT-R の紹介 PV の最後に事件が起きた。

諸事情から首都高バトルシリーズにはライセンス収録されていなかった HONDA の収録がサプライズ発表されたのだ。

これにより国産の主要メーカーが全てこの仮想の首都高へと集うことになった。

実際に収録された HONDA 車も数多く、SUPER GT のベースモデルにもなった現行 CIVIC や 最終型のNSX Type S といった最新モデルも収録されている。

こうした車種の広さはレースゲームにおいて嬉しいポイントであり、こうした重要なポイントの告知の仕方や見せ方も抜群に上手かったと思う。

かつての走り屋達との再会、新たな走り屋達との会遇

首都高バトルシリーズには恒例となっているようなライバルやチームが複数存在しており、本作にもそういったおなじみの面々が数多く登場している。

(時間軸に歪みが存在するが)今作は前作から4年後という設定になっており、空白期間で彼らに生じた様々な変化を感じられる点も見どころの一つとなっている。

また HONDA 車の収録によって久々に首都高へと姿を見せたライバルと再会できる点や、オリジナルの十三鬼将 (13 DEVILS) 十二覇聖(ZODIAC)四天王(THE 4DEVAS)がほぼ全員(どこも欠員が1名ずついる)が登場する点はシリーズファンとしても嬉しいところだと思う。

過去作で揺らいでいた設定もここで新たに見直され、上手く取りまとめられたこともあり、満足感は高い。

そして首都高における伝説ともなった存在も再び姿を見せる事となり、終盤ではそうした桁違いの強敵とも相見えることとなる。

NSXが帰ってきた・・・ってことは

一方で、シリーズで初と言えるヒロイン的なポジションにいる「久遠のポラリス」、86 で固められたルーレット族のチーム「ROULETTE GUY」等の新たな顔ぶれも多い。

彼らのような新興勢力たちが本作のストーリーラインの根幹に関わってきている。そのため、過去作をプレイしていないプレイヤーも彼らの目線で物語を楽しめるのではないだろうか。

久遠のポラリス。アーリーアクセス開始時は話題になった。

ROULETTE GUY。走りに関するスタンスも現代的。

実際、かつての走り屋達が紡いできた憧れや伝説、そして新たな走り屋達が巻き起こすうねりが、やがて一つの新たな伝説への誕生へと繋がっていくあたりは、上手く話を持って行ったように感じたポイントだった。

直線勝負にしかならないバトル

復活するまでのこの長い空白期間の中で、ゲームそのものの立ち位置は徐々に変化していった。それに合わせて、ゲーム全般に求められるものも変化していったように思える。

ジャンルによって様々ではあるが、本質的な面白さだけでなく、誰もがスタートラインに立てるかどうか、継続的に取り組みたくなるような仕組みが存在するか等々の水準がより高くなったように思う。

ここで気になるのは、本作がそういった要求に十分にフィットできているのか、というポイントだ。

前述のとおり、パークやドライバースキルといった側面での遊びやすさ、攻略の自由度は担保されている。ただ、十分であるのかというと決してそうではない

「旧世代的なゲームバランス」としてしまうのは乱暴なのだが、昨今評価をされているゲームと比較すると、ゲーム内での説明や難易度の調整手法には不足、つまりは旧世代的な歪みを感じる部分も少なくない。

要因は数あれど、一番そういった歪みを感じてしまう点はライバルのコーナリング補正にある。

遠心力というものが存在している以上、車はどうしてもスピードを纏ったまま旋回する事はできない。そのため、コーナリング時には多少なりとも減速が必要で、スピードが速ければ速いほどより早いタイミングで長い減速が必要となるのが基本だ。

終盤はライバル車両のトップスピードが超高速化する本作では、こうした相手に対しての対抗策の一つにコーナリングがあると思われていた。

が、本作のライバルはレールの上を走るかのように高速でコーナーを抜けていく。どうやらコーナリング時にグリップ力に対してなんらかの補正が掛かっているらしい。

つまり、「直線が速い相手にはコーナーで勝負をする」という攻略のモデルは殆ど瓦解してしまっていて、むしろ直線勝負でさっさと相手を千切る方が真っ当な攻略のモデルになっている印象だった。

こうなってくると、必要となるテクニックはスタートダッシュとギアチェンジ、相手をブロックする動き程度になり、スキルセットもそれに特化させればよいわけで、(ごく一部のライバルを除けば)ゲームプレイの奥深さはさほど感じられず、攻略の面白さもそこまで感じられなかった。

ローパワーと絞られる選択肢

本作はチューニングによってマシンパワー、つまり馬力を向上させることが可能であるのだが、最高レベルのチューニングを施しても大して馬力が伸びない現象が存在している。

かつてのフラッグシップが揃う280馬力級のスポーツカーは、過去作品では 700 ~ 800 馬力近くまでパワーアップ出来ていたのだが、本作では行っても 500 ~ 600 馬力程度に抑えられてしまっている。

例えパークツリーでパワー系チューニングを開放したとしても、その伸び率や変化量の乏しさ故に解禁プロセスの満足感を覚えづらい。

一方で R35 GT-R や LFA については 1000 馬力オーバーの驚異的なスペックにまで強化される。

4B11 を搭載する Evo Final は 526 馬力

実際のエンジンスワップでも重宝される 2JZ を搭載する 80 スープラは 584 馬力

名機 RB26 を搭載する R34 に至っては 476 馬力。GTO もこの程度。

ここ最近のスポーツカーの純正エンジン群でも 600 馬力前後、高くても 800 馬力に届かない程度


世間ではスーパーカーとされる立ち位置の2強。驚異の 1000 馬力オーバー

登場車種の殆どがローパワーで収まりやすく、そうでない車とのギャップがあまりにも大きくなっていて、1つのツリー内でのグラデーションが上手に出来ていない。

通常プレイの範疇ではこのギャップがある種の大きな足かせにもなってしまっている。

直線勝負で千切りにいくのが真っ当なアプローチとなってしまっている点により、結果として割と早い段階で R35 GT-R か LFA かの2択に絞られる形になっているのだが、R35 GT-R に関しては完全にオーバースペックであり、却って攻略が簡単になりすぎるというトラップにもなっている。

他のアプローチとして、心臓部をより強力なエンジンに載せ替えてしまうエンジンスワップも可能ではあるが、そもそもの解放条件が厳しいだけでなく、エンジンの選択肢も乏しい。

そしてその中で戦力として有用なものは R35 の V6、LFA の V10 と思しきものぐらいだ。

R35 の心臓を搭載した場合

LFA のものとおぼしき V10

ちなみにホンダには NC 型の NSX というスーパースポーツカーが存在しているが、ハイブリッドシステムがゲームに反映されていないせいか、スペックのわりに滅茶苦茶遅く、ろくに戦力になっていないという問題もこの状況に拍車をかけている。

冷遇感のある三菱

他に気になる点というと、三菱車、特にランサーエボリューションのモデル数の少なさだろう。個人的にはここがかなり残念である。

一般的にライバルとして捉えられているインプレッサ/ WRXのモデル数に対してあまりに手薄になっている感じが否めない。

三菱のツリー部分。4台だけ。

一方スバルの方は・・・

ランエボは Evo V, Evo Final の 2台


インプレッサ/WRXはたくさん。世代という観点なら殆ど網羅出来ている。

一般的にランサーエボリューションとインプレッサはライバル関係と言える立ち位置にある車種だ。その双方の収録状況にかなり偏りがあるのはどこか物寂しい。

個人的には Evo I ~ III、 Evo VII ~ IX が一台もないのが非常に残念なポイント。

制約が強いリバリーエディタ

昨今のレースゲームでは当たり前となってきているリバリーエディタ。本作にも搭載されている。ただ、使い勝手は結構悪く、操作性は近年のゲームに搭載されているリバリーエディタの中でも下から数えた方が早いだろう。その詳細についてはアーリー段階でのインプレッションで触れた通りだ。

ただ、単に操作性だけが悪いという話でもない。

製品版になって強く感じたのは、リバリーの枚数上限がかなり少ないという点だ。

車両に貼れるバイナルはボディで40枚、ウイングで10枚と少なめだが、そこに追い打ちをかけるように両サイドのミラー処理で2枚分消費するという特性になっていて、凝ったデザインをしようとするとすぐに上限に到達してしまう。

基本形の種類が不足していたり、描画深度の調整が異様に難しい点もあり、ただでさえバイナル枚数を消費してしまう中でこの制約なのだから、いかに自由度が狭いかがわかることだろう。

少なくともボディには80枚~100枚ぐらい貼れるようにはなるか、ミラーを2枚分換算しないようにしてほしいところだ。

知ってる人にはピンとくるデザイン。これだけで39枚。ほんとに枚数が足りません。

外部の知識前提のデザイン

アーリー段階での感想でも触れているのだが、攻略に関わる情報がゲーム内で十分に提示されていない。

ゲームシステムの説明はチュートリアルとしてはかなり不十分であり、何を避けるべきか、そして何を目指すべきかの提示は PA で能動的に取りに行かない限りはなされていない印象だ。

単なるゲームシステムの話ならまだ良いが、チューニングやセッティングに関する説明の少なさが結構致命的。パーツの効果や各セッティング項目がどう作用するのか、ゲーム内では殆ど触れられていない。

必要な部分の説明がかなり省かれていて、ゲームの外側にある専門知識を要するゲームデザインとなってしまっている。

これはレースゲーム初心者に対して非常に不親切というのもあるが、ある程度慣れているプレイヤーにとっても、その項目がゲーム内でどのように挙動へと反映されるのが正常であるのか分かりにくい側面がある。

パーツの開放メニューでは簡単な説明もないので指針を立てにくい

セッティング画面では簡単な説明が出てくるが・・・

各項目がどう作用するのか(どう作用するのが想定なのか)が分かりづらい

足りない部分もあるけれど

ここまでで本リリース後に感じた良かった所、そうでない所を紹介した。

では総合的に見ればどうなのか、というと、相応に楽しめるタイトルであると思う。

確かに本作は難易度と関係のない箇所の不親切さが目立ち、ゲームバランス自体もどこか歪だ。

ただ、これはある種の「らしさ」でもあり、そこをある程度許容し飲み込めるのであれば、この特異で類を見ないスタイルのゲームの魅力を感じることができるだろう。

実車が登場するゲームでありながら、他のレースゲームよりも 1 つのバトルが短く、ルールもシンプル。様々な背景を持つライバル達、いろいろな走り屋達が織りなすストーリーや中二病ポエムを含んだ独特の世界観もある。

こういった過去作から受け継がれた特異点的なスタイル、それ故の魅力が確かに存在する。

グランツーリスモや Forza のようなガッツリとしたレースゲームだと重たすぎるというプレイヤーにとっては、前述のハードルさえ超えられてしまえば案外取り組みやすいタイトルの一つになるだろう。

価格は安くないし、楽しむためには覚悟と気合がいる等、万人向けではないのは確実だ。その前提を踏まえた上でなお、この独特な世界に興味を持ったのであれば、是非手に取ってみて欲しい作品だと思った。


 



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