JDM: Japanese Drift Masterは 2025年5月にリリースされたオープンワールド・ドリフトレーシング。開発はポーランドの GAMING FACTORY。
日本の地形や道路、風景を再現した架空の地域「群玉県」の一部を舞台とし、様々な仲間との出会い、ライバルや敵対勢力とのバトルを通じて、日本のかつてのストリートレース文化を体験していく作品になっている。
ところどころ漫画という体裁で挿入されるカットシーン、J-POP ライクなラジオなど、日本のカルチャーを模倣し取り入れた演出も多い。
タイトルにもある通り、ドリフト走行がゲームシステムにおける核の一つとなっている。挙動自体はシムケード(シミュレーターとアーケードの中間)的なもので、極端に難しいといったものではない。
現段階では、Honda、Mazda、Nissan、Subaru からライセンス済みの実車が複数台収録されており、比較的人気な車両を実際に操れるのも特徴の一つ。
高水準の日本らしさ
本作で描かれる舞台は、過去の様々な”架空の日本”を表現したレースゲームの中でも比較的高い水準で現代日本を表現したものになっている。
雰囲気や質感のみならず、幅員の狭さやロードサイドの設置物のディテールといった部分で、現実への歩み寄りが見られる。
これらの細かなこだわりの数々によって、架空でありつつもどこかで見たことあるような光景を表現できているように感じた。
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幅員の狭さはかなり近い |
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信号機や街灯もかなり日本の実態に近しい |
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日本の家屋 |
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某埠頭のPAと酷似した場所もある |
また公道だけでなく、競技ドリフトが行われるような日本の小規模サーキットを再現したマップも複数用意されており、思う存分ダイナミックな走りを楽しむことができるのも特徴の一つだ。
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公道と異なり余裕があるため、よりアグレッシブなドリフトが可能だ。 |
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名前は違うがなんとなく見覚えのあるコースもある |
こうした道についてのこだわりは抜群であるのだが、一方でいわゆる”勘違い日本”的な側面も同時に浮き彫りになってしまっている点が非常に勿体なかった。掲示物や看板といった部分が顕著だ。
他の部分でしっかりと現実に近い日本像を作り上げようという意欲が見られるのもあって、こうしたアセットにおけるタイポグラフィやテキストといった部分でのディテールの甘さが悪目立ちしてしまっている。
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フォント周りの安っぽさ、テキストの安直さがどうしても気になってしまう |
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多くの工事現場で用いられているロードブロックが非日本的 |
ユニークな収録車種
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国内のタイトルならまだしも海外のゲームではまず見かけないビート |
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最近では国内アーケードタイトルぐらいでしか収録実績のなさそうなローレル |
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ここ数年では出番が少ない丸目インプレッサ |
こういったユニークな車両以外にもシルビアやRX-7、Zといった定番車両もカバーされている。
ライセンスが降りていないであろう一部車両は名前の異なる別の何かとして収録されている。(ティーラーに並んでいる範囲で言うと)現時点ではカローラレビン、ランサーエボリューション、GTOが異なる名前とエンブレムを有する仮想の車両という扱いで無理やり収録されている状態だ。
該当する自動車メーカーはあの Forza Horizon 4 においてもライセンス締結と収録に時間のかかった 2 メーカーである。いずれ合意に至り、正しい名前とエンブレムを取り戻した状態で走り回れることを願うしかない。
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どうみてもあの車なのだが大人の事情で違う車ということに |
ドリフトとは
本作を構成する要素のうち、最も重要であろうドリフト。
ドリフト
ドリフトを端的に説明すると、車体の向きに対して横方向へ滑っていく状態、またそれを維持する走行技術を指す。
このドリフト走行の利点は、車体の向きをより早くコーナーの脱出方向に向けられる点や旋回半径をより小さくすることができる点にある。
現実世界におけるドリフト走行は自動車技術の進化に合わせて側面が変わっていった技術といえる。
かつてはタイヤのグリップ性能等が現代よりも高くなく、現代よりも簡単にグリップの限界を超えやすかったのもあり、早いターンを追求した結果として横滑りするような動きを見せ、結果としてドリフト走行のようになっていた。
時代は進み、舗装やタイヤのグリップ性能が向上したことで、グリップ走行(滑らせずに旋回する)方がメリットが大きくなった。
結果として、一つのパイロンを軸にターンをするジムカーナ競技のように、極めて小さい半径のターンが求められる競技でもなければ、ドリフトは魅せる技術としての側面が強く広まっている。
ゲームにおけるドリフトの扱われ方
レースゲームの世界では、ドリフトの扱いは大きく二つに分けられる。
『マリオカート』や『リッジレーサー』に代表されるアーケードタイプのレースゲームにおいては、スピードを落とすことなく鋭角なコーナーを旋回する方法としてドリフトを用いているケースが多い。角度の維持もかなり容易であり、そのままスピンするようなこともまずない為、安易に利用できる基本テクニックという立ち位置になっている。
また、マリオカートのミニターボのようにドリフト走行自体に何かインセンティブをつけていることも少なくない。
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マリオカートではドリフトのコントロール自体は容易 (マリオカート8DX) |
一方で『グランツーリスモ』や『Forza』のようなシムケード、『rFactor』や『Asseto Corsa』 に代表されるシミュレーターにおいて、ドリフトはより現実的な立ち位置に置かれていて、こと速く走るという面で用いる場面は極めて限定的である。
多くの場合、パフォーマンスとして、もしくはドリフト競技という文脈で用いられるテクニックとなっている。
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スピンやコースアウトしないように繊細なコントロールが必要になる (グランツーリスモ7) |
シムケードを謳う本作においても、後者と同様に現代的で現実的な立ち位置にあり、パフォーマンスとして導入されている印象である。
ドリフトイベントの失策
コンボシステム
最もプレイ体験をスポイルしているであろう要素は本作のコンボシステムにあると思う。
ゲーム中はどこでもドリフト走行を行う度にスコアが計算されていく。ドリフト状態を持続、もしくはドリフトからすぐドリフトへと繋いでいくと、コンボ状態が維持される。
コンボ中は一定時間ごとにスコア倍率が 1.0 倍から 0.1 倍ずつ積み重ねられ、最大で 5.0 倍になる。一方で猶予時間内にドリフトの判定を発生させられなかったり、激しい衝突やスピンをすると倍率は 1.0 倍に戻り、強制的に清算させられるようになっている。
スコアが関係するイベントでは素点単体では到底クリア水準にたどり着けないようになっている為、コンボを維持したままポイントを稼ぐ走りが大前提として求められる。
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コンボ状態の維持はゲームの攻略において必須となっている |
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ハードヒットやスピンなどによるコンボブレイクは避けねばならない |
一見機能しそうなこのシステムは重大な問題点を抱えている。それはあまりにもコンボ猶予が短い点、言い換えるとコンボカットが非常に起こりやすい点だ。
コンボの猶予時間が異様に短いため、基本的にプレイヤーは常にドリフトし続ける必要がある。コンボの猶予時間は想像以上に短く、1つのドリフトが完結した際にはその反動で直ちに逆方向へのドリフトを入れないとコンボが切れるほどである。
さらにその猶予は視覚的に全く表現されておらず、どれぐらいあるのかがさっぱりわからないところもネックだ。
このコンボの猶予が極端に短い点や UI 上分からない点自体も問題といえば問題ではあるのだが、これらをゲーム全体に影響を及ぼす致命的な問題へと悪化させている要因がある。
それはマップデザインやトラフィックの配置とまるで噛み合っていない点だ。
実をいうとコンボ猶予の厳しさという点は、コーナーが連続しているのであればある程度対処が容易である。同じ向きに旋回し続けるのであれば、角度をコントロールしながらドリフトを続ければよいし、S字カーブのように向きが変わるのであればクラッチを蹴るなりして、直ちに反対側へ車の向きを変えてやればよいだけだ。
問題は直線。このコンボ猶予のタイトさは直線においても同様であるため、直線の長さによっては左右へ蛇行するようにドリフトをし続ける操作(直線ドリフトや卍と呼ばれる[注])が求められる。
[注] 現実でもこうした直線でのドリフトはテクニックの一つとして存在している。例えば 2025 年の D1 GRANDPRIX の筑波では、最序盤にホームストレート上で直線ドリフトを行うように審査レイアウトが設計されている。
ある程度コース幅があり、左右に振っても余りあるようなセクションであれば、車を左右に振っても大して問題にはならない。しかしながら、最初に紹介したように本作はとにかく道が狭い。片側・対面1車線(計2車線分の幅)の道も少なくない。そのため、直線区間ではより小刻みで浅い角度の直線ドリフトが要求される。
それだけではない。本作は一般車両の隊列(4, 5台が詰まって縦に並ぶ)が進行車線上に発生するケースがいくらかみられる。プレイヤーとしてはコンボを切る要因になるために接触したくないのだが、こうなるといよいよ1車線の余裕しかないので、空いている対向車線上をフラフラと小刻みに直線ドリフトを行う羽目になる。
そんなダイナミックさの欠片もない千鳥足のような間抜けな振る舞いは、もはや不格好でダサい運転としか形容できなくなり、もたらされるべき爽快感や達成感は見る影をも失う。
もっと言えば、さらに対向車がやってきて遂に逃げ場すらなくなるケースも存在する。こうなってしまうとお手上げである。
もし解決手段をあげるとするならば、単純にコンボの猶予時間が延ばすか、一般車両のパスやエア、ニトロの噴射で(スコアや倍率の加算はないものの)コンボを維持できるようにする、などが思い浮かぶ。
ゲームバランスなどを鑑みると前者のようなシンプルな解決は難しいかもしれない。ただ、少なくともやりようはあると思う。
同時出走タイプのドリフトイベント
ドリフトの面白さがイマイチ伝わりにくい点には、同時出走タイプのドリフトイベントが出来があまりよくない事も影響している。
同時出走タイプのイベントは2種類ある。全員がよーいドンでスタートし、規定区間内でどれほどドリフトスコアをゲットできるかを競う集団方式と、先行するCPU車両に対してプレイヤーが後追いとしてどれほど接近しながらドリフトできるかを競う追走方式だ。
集団方式では複数台の車両が同じ空間を走っており、前述のコンボシステムを用いて彼らとドリフトのスコアを競うことになる。他車両との位置関係自体はスコアに影響しないため、抜き去っても、逆に間隔を開けて後ろを走っていても特に失格にはならない。
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複数台で一斉にスタート |
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峠道での 1 v 1 |
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追い抜いてしまっても良い。シンプルに邪魔なので。 |
追走方式では相手は1台だけになり、スコアの加算方法も前述のコンボ方式ではなくなる。こちらでは接近度合いによってスコア倍率が変更され、その値に沿って逐次スコアが加算され続ける形式に変更させられている。
スコア倍率はかなり大きく、普通にドリフトをしつつゴールさえできれば簡単にクリアできる。
このように一見やりやすくなったように見えるのだが、この相手に離され過ぎると失格になる他、一定時間以上追い越した状態でいても失格になるため、常に相手の車両の位置に気を配り続ける必要がある。
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ビタビタに張り付ければその分高得点になる |
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先行車両を追い抜いたまま10秒経過で失格になるので注意 |
この2つのイベントはCPU の不可解で精細を欠く動きによって台無しにされている。
とにかく出走相手のライン取りが無茶苦茶であり、本来不必要な減速が多くみられる。
集団方式ではその影響でシンプルに進路を塞いでくるために邪魔になる。それより深刻なのは追走形式で、追い越しに関する制約が影響し、流れるようなドリフトではなく極端なストップアンドゴーを余儀なくされる。
ゲーム側の至らなさをプレイヤー側でカバーしてゲームとして成り立たせる必要がありながら、イベントのクリア自体が全く難しくないのもあって単純に面白くなくなっている。
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妙なタイミングで振り返しをして勝手に減速してくる相手の例 |
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場所によっては前に出てくれずにこうなることも |
まとめると、単走ドリフトイベントはコンボシステムが、そうでないドリフトイベントは CPU の拙い振る舞いが綻びをもたらし、ドリフトイベント全体がドリフトの楽しさをプレゼンテーションする上であまり役に立っていないのだ。
選択と集中の必要性
本作はドリフトイベント以外にも様々なイベントが存在している。
いわゆる普通のレースはもちろん、シナリオ上では逃げたり追いかけたりするチェイス、ミニゲームとしてデリバリーのバイトといったものがある。
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パンダローレルに乗って寿司をデリバリーするモード |
それらのラインナップの中でもひときわ独特な要素としてドラッグレースが存在している。
ドラッグレースとは短距離の直線で横並びになって競うレースで、スタート前にタイヤを温めるウォームアップといった独特なプロセス、爆発的な加速力を生み出す車両など普通のレースとは異なった魅力のある競技だ。単純かつ直線があれば出来てしまうという点からストリートレースでもこの形態を取ることもあった。
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画面下のインジケーターを元に最適な状態へタイヤを温める必要がある |
ただ、このドラッグレースはシナリオではたった2回だけの登場であり、殆どゲーム内で活用されていない。
それに1回目はレンタル車両を用いることになり、ドラッグレース用の車両が活きてくる場面も一度きりしかない。
その2回目のドラッグレースについては少し動作がバギーであることもあり、特にいい印象は残らなかった。
救い
ここまでは本作がドリフトの面白さ自体を上手く表現できていないこと、リソースのかけ方に違和感があったことについて述べてきた。
では本作は完全にダメな作品であるのかというと、実はそこまででもない。
ドリフト操作自体は快適であり、用意されたイベントたちに目を瞑ってしまえば、それなりに楽しむことはできる。「自由にドライブするだけで十分」、そんな人にとってはそこまで悪くない環境はそろっている。
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自由に走れるマップの全域。ここに描かれていないサーキットもある。 |
本作ではドリフト時の車体のコントロールを簡略化しつつ、それでいて操作する面白みを損なわないよう絶妙な塩梅でアシストが入るようになっている。
ハンドルコントローラーがなくても、多少触っていればスムースなドリフトを体験できるような難易度設定になっているので、敷居自体はかなり低めに設定されているように思えた。
それこそ、グランツーリスモや Forza シリーズでドリフトを断念してしまったプレイヤーがコントロールの感覚を養う上でちょうどいい作品ともいえる。
また、ゲーム内通貨を非常に稼ぎやすい設定になっているところも救いとなっている。
まず、前述のデリバリーイベントの収益がかなり大きく、上手くボーナスポイントを稼ぎながらクリアすれば分給数十万という狂ったアルバイトに早変わりする。
その上、シナリオのイベントは全て再プレイが可能になっており、それらもクリアする度に初回クリア時の 50% の報酬を貰うことができる。後半のイベントは拘束時間のわりに貰える金額が大きいのもあって、こちらも事実上狂ったアルバイトになる。
こういった余裕から気軽に他の車を試しやすくなっている点は、レースゲームにとってはかなり良好なポイントと言えるのではないだろうか。
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1分ちょっとで40万。それでいて闇バイトではない。 |
未完成な正式リリース
最後にこの作品自体の評価をまとめたい。
言うなれば未完成である。全体を通して感じた点はこれに尽きる。
いたずらに風呂敷を広げてしまっている印象で、展開しようとしてる世界は十分に磨き上げられておらず品質にムラがある。そして、様々な試みが良好なプレイ体験へと結びついていない点も散見された。
本作は既に正式リリースという形になっているのだが、未だに追加されていない要素や設定が全く煮詰まっていないシステム面、UI 等の操作性の悪さ等々、現状はまだまだアーリーアクセスといって差し支えない程度の出来である。
デベロッパー側はリリース後のロードマップを提示しており、その内容からも現状はまだまだ製作途中のもので大見得を切って正式リリースとは言い難い状態であるように思えた。
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ロードマップ |
とは言え、デベロッパー側にやる気があるのもまた事実で、造りの甘い部分も少しずつではあるが改善しているのも見受けられた。そういった点では、かの作品と比べると十分に期待を持てる作品と言える。
日本では首都高バトルが閉塞したレースゲーム業界に風穴を開けたように、この JDM がポーランドから新たな風を送り込んでくれる日もそう遠くないのかもしれない。
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