伝説の復活に向けて【首都高バトル アーリーアクセス版 v0.10.1】

2025年1月29日水曜日

PC アーリーアクセス レースゲーム 感想

t f B! P L

2025/01/30現在、本作はアーリーアクセスの初週であり、正式リリースに向け歩みを進めたばかり。
まだまだ未完成であり、正式リリースまでに拡充やブラッシュアップが期待される。
今回は、公式へフィードバックする前にある程度整理をつけ、同時に初週における所感をメモする意図で、最終形に対して未実装の箇所が多いという点は留意しつつ、インプレッションを記載する。



良かった点

現時点で特に良かった部分

首都高バトルの魅力を失っていない

ゲーム本編といえるものでは2006年の『首都高バトルX』以来、約19年ぶりの新作である本作。
かつて国内レースゲーム市場で一定の地位を確立していた Genki 自らの手で、一時期カルト的な支持を集めていた首都高バトルシリーズの復活を図る意欲作であり、アーリーアクセスという形ではあるものの、シリーズの持っていた魅力をそのまま全面へと押し出している。
C1を起点とした首都高速を周遊しながら、自慢のマシンで数百もの走り屋達とバトルを繰り返すというコンセプト。

突如首都高に現れた主人公が様々な背景を抱える走り屋達と戦うことで、やがて首都高の勢力図にすら影響をあたえていくような、中二心をくすぐるようなストーリー性。
国内のメーカーを中心とし、どのゲームでも引っ張りだこな人気車種から他のゲームでは見かけないような車種、いぶし銀ともいえる往年の名車までをカバーする収録車種の方向性。
そして、他のレースゲームではお目にかかれない SP バトルと言われるバトルシステム。

永い眠りから覚めた際に魅力をすっかり失って何物でもなくなってしまった作品も存在している中、何が支持されていたのか、何が魅力であったのかを意識できている。
もちろん、ゲームデザインがそのまますぎるがあまり、2025年の作品にしては不親切さや粗さを感じさせる場面も多いのだが、今後開発が進むにつれて改善を見込める箇所も同様に多い。
今この段階ではプレイヤーから完成像というものは見えていないものの、シリーズにおけるコアバリューを見失うことなく、それでいて進化や新たな領域への挑戦を伺わせる本作は期待を抱かせてくれる。

設定の細かさも魅力の一つ

その辺を走っているタクシーやトラックにもバトルを挑める

B.A.D NAME も健在。ところで未確認走行物体って何?

実在メーカーやアフターマーケットメーカー

現状 HONDA を除いた日本の主要7メーカーの車両がライセンス付きで収録されている。
ラインナップ自体はアーリーアクセスということもあり、まだ網羅出来ているとは言えないものの、一般的に人気車種として想定されるものは大方現段階で収録されている。

それだけでなく普段こうしたレースゲームで登場しない国内の複数のエアロパーツ、ホイールの製品も収録されている。
言い方は乱暴ではあるが、ゲームという形では普段スポットライトの当たらないようなメーカーもフューチャーされている点が非常に喜ばしい。

19年という年月によってライセンス周りの情勢も一変している。
かつては収録できなかったようなメーカーも今後登場する可能性があり、そうしたメーカーの人気モデルの参戦にも期待を抱かせてくれる。

オンライン機能導入に関する判断

現状、マルチプレイ要素の一切が設けられていない点も良い判断であるように思う。
マルチプレイ自体は不正行為やトラブルがつきものであり、それらへの対応に不必要なリソースを使うことになってしまう。
首都高バトルという範囲での完成形が期待されている現在、改善とコンテンツの拡充にエネルギーを注ぐべきタイミングではあるため、きっちりとオンライン機能を落としている部分は好印象だ。

幅広い動作環境

今のビルドでは、かなり広範なスペックでゲームプレイ可能なレベルの動作をするようで、ハイエンドPCでなくとも十分にプレイ可能であるあたりも良い。
もちろんグラフィック設定等を落とす必要こそあるが、幅広いプレイヤーが本作を体験できる点は、昨今の実車系 PC レースゲーム事情を踏まえると、相対的に評価があがるポイントだ。

現段階で改善を求める点

今後、本リリースに向けて解決が不可欠だと思われる点。

強力な敵を活かせていない

首都高バトルシリーズでは、ボスドライバーと呼ばれる強力なドライバーが進行に伴って登場する。
各ボスドライバーは周遊している走り屋チームの面々と比べて、強力な車両を持っていることが多く、SP バトルという短期決着を想定したシステムを採用している本シリーズにおいてはかなりの脅威となる。

本作においては過去作でも猛威を振るった「ユウウツな天使」が極端な例だ。
スタート時に先行している彼女の RX-8 は一気に画面奥へと消えていき、活路が見いだせていなければ基本的には何もすることができないまま敗北する。

過去作でもそのような凶悪さや理不尽さを見せるボスは存在しており、従来作品のプレイヤーはこのような状況も「洗礼」として取り扱っている。
では、この「洗礼」がゲームのギミックとして適切に機能しているのかというと、実態としては違うのではないだろうか。

実際に撃破した一プレイヤーの視点では、撃破後の PA でのシーンやその後の展開も全てひっくるめた上で、理不尽さを感じさせるほどの設定にした意義は感じられなかった。
PS2 の時代だったらまだ顕在化していなかっただけなのだろうが、今となっては作り手都合の部分として悪目立ちしてしまっている印象だ。

ここで考慮したいのは、ゲームの序盤~中盤において、避けられない部分の難易度を局所的に跳ね上げて、乗り越えるべきハードルとするギミックだ。
これ自体は本作に限らずとも様々なゲームで見かける一般的な手法であり、細かな意図は数あれど、ゲームプレイに厚みを持たせる意図で導入されることは想像に易い。

ただ、この手法はある種の劇薬でもあり、用法を誤ると早い段階でそのゲームの魅力を損なうだけでなく、モチベーションを奪い去る副作用も存在している。
注意すべき点というのはプレイヤー目線でもいろいろと思い浮かぶものだとは思うが、究極的には「プレイヤーが納得できるだけの要素が提示されているか」にあるだろう。
それは単純にリワードや達成感自体を指すこともあるが、これらだけではゲーム全体を通しての納得感は薄くなりやすく、ゲームの破綻を感じさせる要因となり得る。
そのハードルの突破後にも納得感を維持するためには、次の攻略へのサイクルを生み出せるノウハウを得られるかも重要な観点であろう。
もちろん、このノウハウはあくまで戦略を導くための足場の一つであるべきで、具体的な解答が出現することは偏狭なプレイ体験につながりやすいため望ましくない。

本作の「ユウウツな天使」もこうしたハードルとなっているのだが、残念ながらそこに納得感は得られにくくなっているのではないだろうか。

実際に撃破した例を見てもイレギュラーによって突然勝ててしまったという報告が目立つ。
銀座の中央分離帯に刺さったり、再戦時に謎の減速をしたりといったものが多いようだ。
このように突破した場合にプレイヤーが持ち帰れる学びは、ゲームシステムひいては本作の AI が抱える脆弱性そのものであり、再現性に乏しいものになる。
もしも、それを持ち帰らせることが主題になっているギミックであるならば、以後は攻略のためのトライアンドエラーではなく、乱数のためのトライアンドエラーをするだけでよくなってしまう。
極論を言ってしまえば、それ以降に強力なライバルを追加したり、張り合いのある敵を置いたところで、プレイヤーの視点はゲームシステム自体の脆弱性にしか向かなくなるのだ。

一方で「適切なチューニングを行った上で、相手のマシンが不得意とする勝負が始まるようにして勝つ」といった方法も存在している。
その後は逃げ切るか、接触で削り切るかのプレイスタイルの違いが出る部分ではあるが、そういった戦略を機能させる段階まで持っていく必要があり、より能動的な攻略が求められる。
こちらは乗り越える過程でセッティングや駆け引きといった経験を得られ、様々なタイプのライバルに対して柔軟に対応できるような手札も増える上、一度確立できたメソッドは高い再現性を持つことだろう。
その後のバトルにおいても相手毎に異なる構成と戦略を用意し、それらを駆使して攻略する楽しさを得られるかもしれない。

ただ、現状のゲーム内容ではこういった能動的なアプローチの採用は、経験者ならまだしも初めて本シリーズや実車系レースゲームに触れるようなプレイヤーには厳しいものがある。その要因は大きく2つほどある。

1つ目はこのアプローチがそもそも有効であるかどうかを判断するにあたって、どれだけ善戦しても 1 バトルの時間が短くなりすぎる点だ。

難所とよばれる場面があった時、プレイヤーは様々な選択肢をとり、その結果をフィードバックとして次の策を練ることになる。
但し SP バトルの特性上、こうした強敵を相手にした場合はフィードバックを得られるほどの時間は殆ど与えられず、手ごたえを得る前に決着がついてしまうことが殆どであろう。
何をすべきか、何が足りていないのかを解釈する余裕を一切与えてくれない中で偶発的なアクシデントも発生するものだから、外れ値のようなフィードバックを基にした乱数ゲームという解だけ刷り込まれる構図に陥っている。

2つ目はゲームメカニズムを活用した攻略法への誘導が圧倒的に不足している点だ。

現状では再現性を伴うアプローチには本作の外側にある知識・経験が必要不可欠となってしまっている。
一応、パーキングエリアにてゲーム内の情報を収集できるというシステムがあるのだが、メカニズム的なヒントとは関係のないやりとりが多く、有用であろう情報は(あったとしても)完全に埋もれてしまっている。

まとめると、現実装の範囲では理不尽さすら覚えさせるほどの強力な相手について、ゲーム側はその意義をプレイヤー側へ十分に提示できておらず、結果としてプレイ体験の悪さを生み出し、攻略の面白さも狭めてしまっている。

この問題への対策には難易度調整やAIの振る舞い調整、攻略に関わる情報量を増やすといった手段が考えられる。
前者2つについては完成形となった際のバランスも存在するため、最適な調整は現段階では難しい部分と思われるものの、最後については現状の枠組みでもさほど難しくないことだろう。

パークシステムの制約

本作で新規に導入されたパークツリー。
ライバル初撃破時にもらえる BP を用いて車やパーツのアンロック、スキル取得や制約の緩和、SP バトル時の能力強化が可能になっている。

各ノードのアンロック条件はそれぞれの親ノードのアンロックの他、本編の章ごとに存在するボス撃破が条件となっているケースがある。

スキルや能力強化に関してはプレイヤーに難易度調整の余地を与えるいい仕組みとなっているのだが、他の要素については制約が重めになってしまっており、現状では課題があるように思う。

車両のアンロック

メーカーごとに分かれたツリーを順番に1車種ずつ開放していく形になっている。
コンテンツが少ない現状では BP の枯渇が起こり、ワンダラーとのバトル条件を満たせなくなる可能性があるため、全ライバル撃破という観点では詰みが容易に発生しうる。
正式リリース時にここのケアがなされていない場合、情報を得たときには詰んでいるケースが起こり得る。

パーク画面のマシンのタブ
パーツのアンロック

マシン性能を強化するパーツの開放も、パーツ毎レベル毎に行う必要がある。
基本的には問題はないのだが、救済処置的な役割も担ってもよいのではないだろうか。
またドレスアップにも関わるサスペンション Lv3 のアンロックが遅い点も気になる。

所持金のキャップ

本作に導入されている所持金のキャップ。
おそらくプレイヤーが必要以上に選択肢を得ることを抑制する意図で導入しているのだろう。
しかし、初期上限値がかなり少なく、パークでの緩和幅もさほど大きくない。
主な消費先の車両とパーツに強い制限がかかり、早い段階で消費先が無くなるだけでなく、キャップ開放自体にもゲーム進度による制限がかかっているのもあって、簡単に溢れるようになってしまう。

ボス演出のコントロールが不十分

ボスの登場演出のコントロールが不十分でテンポが悪い。
登場演出は2種類あり、通常バージョンとロングバージョンが存在している。
基本的にバトル開始時には通常バージョン、未発見状態で接近した際や対戦済み状態でその日初めてバトルをした際にロングバージョンが再生される。

この演出の介入具合、特に再戦の場面が多いボスの演出が全体のテンポを悪化させているように思う。
歴代の雰囲気作りの側面を考慮すると「その日の初挑戦時にロングバージョンの演出」だけで、他は汎用バージョンで十分である。

演出自体は今作もワクワクさせるのが上手い。要は使い方の問題である。

AIの振る舞いが荒い

バトル中の AI の振る舞いにも課題がある。

本作は車線変更を多用するゲームであり、それは敵車両も同じなのだが、このレーンチェンジ周りに問題を抱えている。
AI は車線の中央にガイドレールが乗っているかのような動きをするのだが、レーンチェンジ時にもその傾向があり、車線中央から中央へと移る動きを見せる。
この際にプレイヤーが並走していようとお構いなしで中央まで向かおうとするため、こちらが壁に擦りつけられる現象が多く見られた。不本意な接触によって相手のSPが削れやすくなっており、その後の面白さを損なってしまっている点ももったいない。
これ自体がライバルの性格だとかキャラクター性が反映された結果というわけでもなく、すべての相手に共通してみられる現象であるのも残念なポイントである。

と、この時点であまりプレイ体験として良くない部分ではあるのだが、この現象はさらに悪い副反応を引き起こしてしまっている。

勝手に幅寄せをしてきた挙句に、セルフピットマニューバーを引き起こし、プレイヤーの前方をふさぐような形で斜めに壁へ刺さりやすくなっているのだ。
ひとたびこうなってしまうと、ゲームのテンポが非常に悪くなり、バトルの面白みも欠けてしまう。

リバリーエディタの弱さ・使いづらさ

本作ではバイナルエディタを搭載し、マシンの外見により個性を持たせられるようになっているが、現段階ではあまり強力とはいえず、凝ったデザインを導入することは難しい。

文字種が少ない、枚数が多くない、位置がパラメトリックに表示されない、カラーパレットで透明度を調整できないといった点はあるのだが、特に改善をしてほしい点は、レイヤー操作へのアクセスがスムーズでない点だ。

多くのゲームはリバリーエディタを開いた段階でレイヤー操作にアクセスできるようにしており、その中で追加操作にもアクセスできるようにしているのだが、本作はメニューでワンクッション置かれている為、編集をサクサク行いづらい。

LIVERY メニュー。まだここはよい。

バイナルエディター表示時。左側のメニューは不要で、基本右側へ統合すべきである。

UI操作が快適でない

UI操作にも課題はある。
コントローラーでの操作がポインターに固定されがちな点が少し使いづらいポイントがある。
特に Spatial Navigation が容易なケースについては、フォーカスの切り替えで操作できるようにしてほしい。

セーブの左上にある丸がカーソル。これをコントローラーで操作する形になっている。

また PERK の解禁時の振る舞いにも課題がある。
解禁操作と解禁状態の反映を通知するポップアップの表示までにタイムラグがあるので、快適さを損なっている他、誤操作しているのではないか、BP周りにバグを起こさないだろうかという不安を抱いてしまう。

今後期待したい点

コンテンツ追加の方向性に期待する点

車種の拡充

より広い範囲の車種、特に他のレースゲームでフューチャーされにくい車種の追加が望まれる。
極めてわかりやすい例でいえば、RWD の 第2世代スカイライン(R32~R34)であったり、AE111のようなあまり取り上げられないネオクラシック、ミニバンやトールワゴンあたりだ。
普段はゲームより街中で見かけるような車種や、話題にあがるもののゲームでは見かけない車種をもカバーするマニア目線もGenki のタイトルの魅力の一つでもあるため、こういった拡張の方向性は本作でも期待せざるを得ない。

バイナルの拡充

バイナルの種類はもう少し欲しい。
特にカラーパレットで操作できるようなものが求められる。
アフターマーケットのロゴ等も追加されると喜ばしい。

あったらうれしい要素

必須ではないが、個人的にあるとうれしい点

セーブスロット

現状はセーブスロットが1つではあるが、詰みやすさや称号、検証等もあるため複数使える方が望ましい。

NEW GAME+

車両やセッティング、資金を引き継いだ状態で撃破状況や進行状況がオールリセットできる機能等があると良いかもしれない。

リファレンス画面の機能拡充

リファレンス画面で撃破済みライバルで直接対決の呼び出しができると良い。
PA で遭遇できる人物については立ち絵の表示もできると良いと思う。

たとえばコイツ

こんなおもしれーやつの立ち絵、活用しないともったいなくない?

まとめ

アーリーアクセスの初期段階にしては、十分なボリュームと本作のビジョンがしっかり含まれており、ちゃんと遊べるものが出来上がっている。

かつての首都高バトルの魅力を残しつつも、それでいて新たな工夫を施そうというただのリメイクで終わらせないような気概がある。

一方で、昔のゲーム性自体が持つ歪みもそのままになってしまっている部分があり、近年のレースゲームとしてはゲーム体験が良くない部分も様々見受けられるため、正式リリースまでに改善されることを期待したい。

QooQ